MAVUNO

BUNONのアトリエを訪ねて

2024.4 / text: MAVUNO / Atelier photo: Miyahama Yumiko
BUNONのアトリエ
細部まで綿密に拘った繊細なディティールと圧倒的な手仕事の魅力が好評のBUNON。
「BUNON」とは、ベンガル語(インド西ベンガル州とその周辺で話されている言葉)で機織りを意味する言葉です。
BUNONの服 BUNONのアトリエの吉田謙一郎さん
このブランドが生まれた背景には、あるアパレルブランドのメンバーとして、パリの展示会へ参加していたディレクターの吉田謙一郎さんとインドで生地とサリー(インドの伝統民族衣装)ブランドを展開するBUNON textiles社のスミトラ氏とのパリでの出会いがありました。
インドの空
BUNON textiles社は、Hand Loom(手織り)で作る高品質のKhadi(手紡ぎ、手織り生地)素材を用いて、ジャムダニ織やカンタ刺繍など、現代では難しくなった手仕事をインドの熟練した職人と守り続けています。
インドの織物
インドの近代化に伴い、サリー離れが進み、地域に根ざした文化や生業が廃れつつあることを危惧していた代表のスミトラ。渡仏の目的は、自分たちの仕事を継続させるためのパートナー探しでした。
インドの織物
そんなスミトラが出会ったのが、後にパートナーとなるディレクターの吉田さん。
彼らの話を聞いて、当初は半信半疑だった吉田さんも、インドから届いた生地を見た際に衝撃を受けました。カディ独特の不均一さが作り出す陰影や趣。巧みな手仕事の数々...
インドの紡ぎ糸
「世界にはこんな生地を作っているところがまだあるのか!絶対にこの文化を絶やしてはいけない。この素材を用いて、彼らとものづくりを行ってみたいし、そうしなければならない!」 との想いで、日本とインドのパートナーと共同で2019年「BUNON」をスタートさせました。
BUNONのカタログ
BUNONのお洋服は、インドのコルタカで作っています。すべての仕事は分業で、糸を紡ぐ人、生地を織る人、刺繍や縫製をする人に分かれています。シルクの生地は森で育った野蚕の繭を採りに行くことからスタートします。
インドの紡ぎ糸 インドの紡ぎ糸
糸を紡ぐのは決まって女性です。手のひらと太ももの内側を使い、撚りをかけて紡いでいきます。女性の柔らかな肌でないと、糸を紡ぐことができないからです。そして、その糸を手織りで生地にするのは男性です。1300年前から変わらない製法で全て手作業。これを未だに続けていることは、インド国内でも驚愕される事実です。
BUNONのデザイナー浅野愛美さん
日本でデザインを手掛ける浅野愛美さん。BUNONのコレクションで思い浮かぶものと言えば、ずらりと並んだ手仕事のクルミボタンに繊細な刺繍。贅沢に施された沢山のギャザーやタック。どれをとっても気の遠くなるような手法の数々...。
BUNONのデザイナー浅野愛美さんの手
この細かな作業をどうやって指示しているのか、と浅野さんに問えば、「それが、細かい部分はデザイン画だけで、数までは指示していないんですよ。」とくすりと笑う。
BUNONのドレス
毎シーズン色を変えて展開しているのは、お花のプリントのエンブロイダリーテキスタイル。その柄の1つ1つの花芯に全てのフレンチノットの刺繍を施したBUNONの代表的シリーズです。
BUNONのフレンチノットの刺繍
「元々の生地にプリントをしているので、当初は、花の芯の所々に刺繍をして欲しいと指示を出したんですが、『所々なんてわからないから、全部する!』と生地すべての点々に刺繍が施されたサンプルが届いたんです。こんなこと日本じゃ考えられないですよね?!」
BUNONのデザイナー浅野愛美さん BUNONのフレンチノットの刺繍
「タックにしても、刺繍にしても自分たちの想像をはるかに超えた手仕事が返ってくるから、ディティールの部分については、あえてあまり細かくは言わないようにしているんです。」と吉田さん。
BUNONの服
ブランドのスタート当初は、生産の現場と自分たちが考えるものづくりのイメージの共有が難しく、何度もやり取りを重ねました。
デッサン
浅野さんのドローイングを基にインドでハンドプリントされるプリント生地も最初は苦労しました。データで送っても思ったような色に仕上がらなかったため、インドの糸帳を取り寄せて、「ここはこの番号の色で。」と、細かな指定をすることで共通の感覚を築いていきました。
インドのプリント工房 アトリエ
デザインのソースはいつも自然の風景の中。
自然の風景
日常生活の小さな煌めきを掬って、ポエムやデッサンを描いてテーマを決めていきます。
デッサン
2024年 BUNONのSPRING&SUMMERのテーマは、 『おもいでをゆう』
大切な思い出を結って新しい日を迎える
トーンを合わせたような様々なカラーを重ねるたびに
新しい思い出となって続いていく
髪を三つ編みするように
忘れたくない記憶を丁寧に編んでいく
これまでとこれからを
鳥の刺繍
BUNONの服作りの裏側を知ると、「手仕事の魅力が詰った美しい衣服」というファッションの表面的なものの奥に、素材や環境、伝統や文化といった社会が抱える問題への配慮やアプローチに気づく。
糸
デザイナーの浅野さん自身は、「BUNONのものづくりの上で、その背景はとても大切な事で、伝えていかなくてはいけないんですが...実は、エシカルやSDGSというような事をあまり声高に言いたくないんです。
『環境に良いから!』と、世間を説得するような形で購入して貰ったものよりも、『自分がいいな、好きだな。美しいデザインだな。』と思って、偶然手に取った一枚が、たまたま『社会や環境に優しいものだった。』というようなことを目指しています。」
アトリエに掛かる服たち
文化や伝統を守っていくという姿勢が偶然結んだインドと日本のクリエーション。そこから生まれる繊細で美しい手仕事の一枚を身に纏う事が、優しい社会を未来に繋げる一歩かもしれない。